「常磐線『開通』は二次被害もたらす」(東京大学支部『決戦』)

常磐線「開通」は二次被害もたらす

福島の労働者民衆と連帯して「見せかけの復興」を阻止しよう!

(2020.01.16 MSL東京大学支部)

 

JR常磐線の富岡—浪江間(20.8㌔)は福島第一原発が2011年3月に事故を起こして以来、沿線が帰還困難区域に指定され、9年間不通となっている。JR東日本は今年3月のダイヤ改定でこの区間の運行を再開し、政府も駅周辺の帰宅困難区域指定を解除するとしている。一見すると被災地の復興が一歩前進した、いいニュースであるかのように思えるが、放射能汚染の危険は未だ取り払われていない。現場で働く労働者も運転再開に反対する中、乗客や住民、労働者の身の安全を無視した結論ありきの国策が遂行されようとしている。民衆が求めるのは見せかけの復興ではないはずだ。(文:水原とまり)

 

営業列車が走るそのすぐ隣は汚染<高線量>地域

JR水戸支社関連会社の労働者で構成される労働組合である動労水戸(国鉄水戸動力車労働組合)は、常磐線開通に反対する立場から会社側と何度も団体交渉を行っている。会社側は、「線路上は除染し、線量も低いから安全」としているが、線路から一歩外へ出た部分の除染は政府の管轄で、始まってすらいない。じっさい東京新聞の調査によると、線路と交差したり並走したりする道路の多くで高線量が観測されている。除染していないのだから当たり前だ。筆者が1年前に国道6号線を通過してこの地域を視察した際も、確かに脇道にはいっさい立ち入れないようバリケードが築かれていた。このように線路が汚染と文字通り隣り合わせにあるのでは、列車の故障や停電が起こった場合の救援に重大な支障をきたし、列車は汚染地域に取り残される。

JR資本の立てた「安全対策」は、乗務員と乗客の安全を蔑ろにしたずさんなものである。

 

内部被曝を強制される検修労働者

核兵器や原子力関連事故で最も恐ろしいのは内部被曝だ。放射線に曝されている間のみ被爆する外部被曝と違って、内部被曝では放射性物質が体内に蓄積し放射線を浴び続けることになる。

動労水戸は、附属地帯の除染が行われていない現状では、列車等の検査・修繕労働で放射性物質を吸い込み内部被曝が発生し得ると指摘する。実際に検査・修繕労働に従事する労働者も「電車のモーターなどを冷やすのに風を吸い込むけれど、そこを圧縮空気で清掃すればマスクをしていても鼻の中まで黒くなる。」「床下についているフィルターを掃除すれば、メンテナンス職場は汚れるんです。そこ(浪江—富岡間)を走った車両を清掃する労働者も当然、被曝する。」と指摘する。いっぽう会社側の主張はといえば、「列車は高速で通過するので放射性物質は列車に付着しない」という完全なデタラメでしかない。

労働者に完全論破されてなお、なりふり構わず列車の運行を再開しようというJR資本の絶望的なあがきは、「労働者の安全など会社にとってはどうでもよい」という姿勢の表れであり、絶対に許すことができない。

 

原発事故は安全?

かつて、日本の原発は事故を起こさないという「安全神話」があった。福島の事故でこの安全神話が崩れたのは言うまでもない。膨大な数の労働者民衆が原発の廃絶を求めてデモや集会に決起し、事故から9年経っても国内の原発33基中7基しか稼働できないという力関係を作ってきた。そこで追い詰められた歴代政権=原発推進派は、事故が起こっても安全であるという「原発事故安全神話」とでも言うべき言説を盛んに喧伝し、残る26基の再稼働を狙ってきたのだ。東大名誉教授・早野らによる、福島県民の外部被曝を過小評価した不正論文や、健康被害を憂慮する言説への「風評被害」レッテル貼りが事故の危険性を覆い隠してきた。一方、事故後行われてきた福島県民への健康診断(甲状腺検査)では手術でがんと確定した患者が168人、悪性疑いも含めると230人に診断が出ていると報告された。検査は定期的に行われており、直近の検査でもがんが見つかっている。それにも関わらず、検査の「お知らせ文」では何の害もないはずのエコー検査を受ける「デメリット」が強調され、検査の実施率が低下し、見つけられるはずのがんが隠蔽されている。

原発事故そのものも収束などしていない。除染は不十分、汚染水問題も未解決、廃炉工程も先日見直され5年遅れると決まったばかりだ。

そもそも、これまで述べたような危険性は、JR資本にとっても経営上のリスクに違いない。同じ福島県でも豪雨災害で不通となった只見線の復旧に際しては、設備維持コストを自治体に押し付ける「上下分離方式」を呑ませたほどのJR東日本がここまで常磐線開通にこだわるのには、ここにもっと長期的、巨視的な利害があると見るほかない。

JR東日本という会社は、国鉄という公社の民営化によって誕生し、いまや世界最大級の鉄道会社として、日本経済の重要な一角を占めている。会長・冨田哲郎が経団連(日本経済団体連合会)の副会長でもあることが象徴するように、日本経済が没落すれば鉄道も儲からなくなり、鉄道が機能しなければ日本経済も血の巡りが悪くなるという、JR資本と日本経済界とはいわば一蓮托生の関係にある。

その日本経済界にとっての生命線が、原発なのである。石油など原子力よりもエネルギー密度の低い、備蓄のしづらいエネルギーに依存していれば、海外情勢の変化が日本経済界にとっての致命傷となり得る。じっさい、戦後の「高度経済成長」=国際的優位に終わりを告げたのはオイルショックであった。同時に、圧倒的な貿易黒字を背景とした「福祉国家」の時代も終わり、新自由主義が台頭し、これらは国鉄経営の行き詰まりと分割民営化をもたらした。

さらに原発の稼働は、日本がウランやプルトニウムを保有する口実になる。通常の核燃料はウラン濃縮を行わなければ兵器転用に適さないが、使用済み核燃料から得られるウラン238を、もんじゅなど高速増殖炉で高純度のプルトニウム239に核種変換する技術が確立しており、現代の核兵器のほとんどはこの高純度プルトニウム239から製造される。軍事的優位は経済的優位にとって重要であり、核兵器にいつでも転用可能なこの技術も日本経済界にとっては欠かせない。

こうした背景から、経団連は原発再稼働を何度も主張しており、JR資本もこれに同調するかたちで、「事故安全神話」のための常磐線開通にこだわっているのだ。

 

見せかけの復興を許すな

福島県議会は昨年10月、災害救助法の対象となっている原発事故自主避難者に対し、いま住んでいる国家公務員宿舎(東京都)からの退去と「不法に住んでいた」分の家賃の支払いを求めて訴訟を起こすことを議決した。財務省が退去期限を設定するよう福島県にはたらきかけており、政府の意向を反映したものだ。避難者は、ふるさとが危険だと認識しているから避難を続けているのである。避難者がいるということは原発事故が収束していないということであり、そんな事故を起こす原発は危険なものであるということである。これでは再稼働はできない。この状況での常磐線開通は「事故安全神話」を補強し、政府が「双葉町も大熊町も危険ではなくなったから帰ってください」と宣伝するために利用される。原発再稼働=経済界の利害のために避難者民衆の生活はとことん踏みにじられる。

乗客、労働者、元住民である避難者の安全を放棄した見せかけの復興はいらない。我々学生が今できることは、「復興」祝賀ムードに騙されず、声を上げることである。福島の民衆と連帯して、常磐線開通と原発再稼働を阻止しよう。3・11反原発福島行動とダイヤ改定粉砕に立ち上がろう! ■

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